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なぜ開票率1%で当確が出るのか?

なぜ開票率1%で当確が出るのか?

2012年12月18日 08時00分 公開

[葛西伸一,INSIGHT NOW!]

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著者プロフィール:葛西伸一(かさい・しんいち)

大学卒業後、大手エレクトロニクス商社に勤務。その後、IT業界、映像コンテンツ業界と15年間の営業・企画・マネージャー等の経験を経て、 2007年4月に(株)メンター・クラフト設立。豪州ボンド大学大学院MBA(経営学修士)エグゼクティブ・コーチ(JIPCC認定)、日本コーチ協会正会員

 12月16日に行われた衆議院総選挙。選挙当日は各局が選挙特番を組み、選挙速報一色でした。

 私が子どものころは選挙の時期になると、大好きなアニメ番組やドラマが放送延期となり、どの番組も選挙特番で本当に退屈だった記憶が鮮明によみがえってきます。

 そんな中、野球中継なら面白いだろうとチャンネルを回してみると(当時はチャンネルをガチャガチャ回すタイプだったので)、画面のサイドと下に各党の当確議席数が表示されていたのですが、子どものころには、その数字が一体何を意味するのかすらまったく分かりませんでした。

 そして、自分が成長するにつれて、少しずつその意味が分かってきたころ、ニュース速報や選挙特番とやらに「○○区の××氏が開票率1%で当選確実」などというニュースが流れます。

 ところが、「開票率1%で当選確実?」という疑問が常に頭に浮かんできたのです。

 「何で何で? だって、10万人の選挙民がいて、投票率が50%だとしても5万人。5万人の1%ってことは……500人……たった500人分の票を開けただけで、何で当選が確実だなんて言えるの??? 最初の1%の人がA氏に投票しても、残りの99%の大半がB氏だったらどうするの?」という具合に。

 素人ながらに、「恐らく統計みたいな情報から推測しているんだろうけど……それで、当確なんてどうして言えるの?」という疑問が常に付きまとっていました。

 しかし、統計学の基礎を学ぶと、そのカラクリが分かってくるのです。ちなみに、この手の話はさまざまな個人ブログや質問サイト、また各種著書の中でもすでに多数紹介されていますが、改めて初めて考える方にも統計的な視点から分かるように解説してみます。

 厳密に各局がどのような数字をミックスして“当確”を出しているかは不明ですが、少なくとも投票所の出口調査のアンケートや事前アンケートなどの統計的なサンプリング調査が主要因数であることはどこも共通しているようです。

 そして、その開票前調査による統計的なデータと実際の開票の(候補者ごと)の表の山分けの大きさ情報(開票時におおよそ投票者ごとに山分けされる)、選挙管理委員会からの報告データなどと照合して、当確を打つわけです。

 例えば出口調査の場合、各局は選挙が終わった人が投票所から出てきた人に無作為にアンケートをとって、例えば1000人中、何人がどの候補者に投票したかという情報を集めます(出口調査を何人やっているかは、選挙民の多い少ないに応じて異なります)。さらに、そのアンケート結果を裏付ける各候補者を支持している組織や過去の実績などの補完データを集めて統計計算結果の信頼度を上げているようです。

 ただ、いろいろ調べてみても、各局がどんな複数のデータをもとに厳密な統計計算をしているかは定かではありません。

 そこで、ここでは出口調査に絞って統計的に確実性があるかどうかを調べる手法を見ていきたいと思います。

 結論から言うと、「無作為に取り出したサンプルがある程度あれば、そのサンプルの結果から、かなりの割合で票全体の動向が読み取れる(推計できる)」ということです。ただし、「無作為」というのがとても大事で、サンプルが偏っていたり、あまりに少なかったりとその推計結果が疑わしくなります。

 「1%なんて少ないのでは?」と思われるかもしれませんが、統計学だと仮に1万人の投票があった場合、無作為な96人分の投票結果が分かれば、1万票全体の動向が推計できるのです。

 この96人という数字は、許容誤差10%、信頼率95%という計算条件設定の中ではじき出される数字になります。つまり、誤差が10%くらい出るかもしれませんが、特殊な5%以外の95%の範囲にその結果(候補者)は含まれているという意味です。より分かりやすく言うと、100人いたら95人はその結果(候補者)に投票しているだろうということです。

 ちなみに、より精度をあげるために、計算条件設定を、許容誤差5%、信頼率99%まで上げようとすると、623人の無作為なサンプルを集める必要があります。

 いずれにしても、95%以上の信頼度があれば、“かなりの確率”と言っても過言ではないと統計学では考えられています。

 もちろん、サンプルが多ければそれだけ結果精度も向上しますが、統計学では、ある一定のサンプルが集まれば、それよりも多くとっても結果はあまり変わらないということになるのです。つまり、たくさん取りすぎても結果はあまり変わらないから、統計的に必要な数だけサンプルをとるという行為で統計学を使ってかなりの確率で推計できるのです。

 とはいっても、放送局が一度、当確を出して取り消しというとなると、局の信頼性が問われます(過去に何度か発生しています)。そこで、各局は100%に限りなく近い推測を立てたいので、出口調査だけでなく、事前アンケートや過去の実績などさまざまな補足因数を足しているようです。

 これは統計を少し勉強すれば、エクセル(分析ツールというオプション機能)を使って瞬時に計算できますので、挑戦してみたい方はエクセル統計などの本で勉強することをお勧めします。

統計学で見えてくるもの

 ちなみに、選挙のほかにも、統計学を使うと今まで見えなかったいろんなことが分かってきます。

 いくつか事例を挙げてみますが、ある会社の営業部門の部長が課長に対して、「君の営業課の売り上げが上がらないのは、営業担当が外出しないで社内をウロウロしているからだ!」と言ってきたとします。

 そこで、「本当にそうなのかな……」と統計を使って、営業担当の外出頻度に対して、結果である商談発生件数、売り上げなどとの相関性を図ることで、関連性が高そうか、低そうかということを数字で表すことができます。

 また、広告を掲載したけど、その広告効果があったのかという検証も、回帰分析という統計手法を使うと、上の例と同じように受注件数や売上金額などによる影響が多かったか、少なかったかなどが数字で読み取れるのです。

 そして、アパレル業などであれば、例えば店舗面積と売り上げの相関性や、曜日や天気による、各衣料品の売上との相関性なども数字面で推測できるのです。

 誤解があってはいけないので説明しますと、これらの例は、あくまでも定量的な側面からの分析であって、数字だけですべてが読み取れるわけではありませんので、あくまでも一つの指標という意味で使います。

 いずれにしても、このような統計的計算を使うといろいろなことが推測できるわけです。

 これらのように、統計学はビジネスをする上でも、定量分析と言って非常に大切な指標となります。しかし(これは私の経験からですが)、日本の会社の多くは、定性的な要素を使って現状分析をしたり、定量分析といっても、数字の傾向をグラフにしたり、平均をとったり、前年度と対比したりという分析だけに終始しているケースが多いと感じています。

 統計を学ぶことで、これまで我々が見えなかった新たな数字的視点が見えてくると思いますので、日本でもビジネス統計が普及することを願っています。(葛西伸一)